工房若葉だより

若手職人・悠斗が紐解く、漆器の新たな表情:暮らしに溶け込む、手仕事のぬくもり

Tags: 漆器, 若手職人, 伝統工芸, 日常使い, 工房若葉

若手職人・悠斗が紐解く、漆器の新たな表情:暮らしに溶け込む、手仕事のぬくもり

新緑が目に鮮やかな季節となりました。皆様、いかがお過ごしでしょうか。 工房若葉だよりでは、日々の暮らしに寄り添う伝統工芸品の魅力と、それを生み出す若手職人たちの息吹をお届けしております。

今回は、工房若葉の漆器部門で研鑽を積む若手職人、悠斗(ゆうと)に焦点を当ててご紹介いたします。漆器と聞くと、格式高い美術品や特別な日のための道具というイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、悠斗が目指すのは、現代の生活空間に自然と溶け込み、毎日を少し豊かに彩る漆の器なのです。

悠斗は、幼い頃から工房で漆の樹液が持つ独特の輝きに魅せられてきました。大学で美術史を学んだ後、改めてこの道を選び、伝統的な漆の技法を日々学び続けています。漆は、漆の木から採れる樹液を精製した天然の塗料で、日本では古くから様々な生活用品に用いられてきました。その魅力は、堅牢性、抗菌性、そして何よりも使い込むほどに深まる艶やかな美しさにあります。

現代の食卓に息づく、悠斗の「光陰盆」

悠斗の新作「光陰盆(こういんぼん)」は、そんな漆の魅力を現代の暮らしに活かす試みから生まれました。このお盆は、伝統的な塗りの技術を用いながらも、形は極めてシンプルです。縁を薄くすることで軽やかさを演出し、手のひらに吸い付くような滑らかな触感が特徴です。悠斗は、このお盆が日々の生活の中でどのように使われるかを想像し、何度も試作を重ねました。

特にこだわったのは、色の表現です。従来の漆器に多い朱や黒だけでなく、日本の自然から着想を得た「深翠(しんすい)」と「月白(げっぱく)」の二色を展開しています。深翠は、奥深い森の緑を思わせる落ち着いた色合いで、食卓に静謐な彩りを添えます。月白は、夜空に浮かぶ月の光のような、わずかに青みがかった柔らかな白で、どんな食器とも調和する品の良い表情を見せます。

悠斗は、色を混ぜ合わせる際にも、季節や時間帯によって移ろう光の表情を意識すると言います。「光の加減で微妙に色が変わって見える漆の深さを、日々の暮らしの中で感じていただけたら嬉しいです」と、彼は静かに語ります。何層にも渡る塗りの工程は、気の遠くなるような作業です。しかし、悠斗は一つひとつの層を丁寧に塗り重ねることで、漆器に宿る生命を吹き込んでいるかのようです。

日常使いで、漆器の温もりを

この「光陰盆」は、朝食のパンとコーヒーを乗せるトレイとして、午後のティータイムに和菓子を添える器として、また、玄関で鍵やアクセサリーを置く小物入れとして、様々なシーンでお使いいただけます。食卓に一枚あるだけで、いつもの風景がどこか豊かに、そして心穏やかな空間へと変わるでしょう。

伝統工芸品と聞くと、少し敷居が高いと感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、悠斗の作品は、手の届きやすい価格帯からお求めいただけます。「光陰盆」は、数千円台からご用意しており、漆器を初めてお使いになる方にもおすすめです。工房のオンラインストアや、年に数回開催される展示販売会にてご覧いただけますので、ぜひ一度、その手触りをお確かめください。

工房若葉では、これからも若手職人たちが伝統の技を守りつつ、現代の暮らしに寄り添う新しい価値を創造してまいります。皆様の日常に、手仕事のぬくもりと、ささやかな彩りをお届けできれば幸いです。次回の工房若葉だよりもお楽しみに。